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終わらない夢
第1章 曖昧な夢
「な、何が?」
「た、貴史君が、パパが…麻友子さんの携帯に。出ないから、私の携帯にかかってきて…。」
「何で?え?」
「貴史君が陸橋から落ちて…。」
何を言われているのかわからない。
それ以降、頭が真っ白になり気を失う。
陸橋の柵を乗り越えて、道路に落下し通過するトラックに轢かれて重体。三時間後に息を引き取る。
病院で警察から説明を受けたものの、何も感じない。
側にいた、夫を責めるだけ。
そして、自分を責めるだけ。
小さな亡骸を家に移し、葬儀の準備に取りかかる。
「麻友子さん。気をしっかり持って頂戴。」
義母は私を慰め、無気力な私の代わりに周りの世話や用事をやってくれた。
「英輝、お前が一緒にいたのに何故こんなことになったんだ?!」
義父は英輝を責め立てる。
英輝も、ただ項垂れるしか出来ない。
宵闇の中、通夜が始まり沢山の弔問客が訪れる。
すすり泣きと、小さな囁き。
私も悲しいのに。
涙が出ないのは何でだろう。
ふっ、と焼香台を見る。
背の高い、男性が貴史の遺影をじっとみつめている。手を合わせ、涙を堪えている。
貴史の一年生の時の担任。
磯山宏哉だった。
焼香を終え、すっとその場を立ち去る。
「貴史君は絵を描くのが好きですね。夏休みに描いた蝉の絵はとても力強くて、生き生きとしていますよ。」
何度か磯山先生とは学校の行事や役員会で会ってはいたが、面と向かって話すのは今回がはじめてだった。
夏休み明けの、個人面談。
九月末の午後の教室。
「学校での生活はどの授業も真剣に取り組んでいますね。係りの仕事も進んでやってくれますよ。」
首筋を流れる汗。
シャツからのぞく、鎖骨。
細い手首。
大きいけど、形のよい唇。
英輝には無いものばかり、気になってしまう。
恋に落ちるのは数秒でかまわなかった。
今まで、知ることのなかった感情。
私には無縁だと思っていた感情。
ペンを握る手。
汗をぬぐう仕草。
その、声。
私は憧れに身体を震わす。
この恋は、誰にも言えない。誰にも気付かれてはいけない。
そっと、閉じ込めよう。
心の奥に。
私には夫も子供もいる。
たとえ、それが偽りの家族であっても。
「た、貴史君が、パパが…麻友子さんの携帯に。出ないから、私の携帯にかかってきて…。」
「何で?え?」
「貴史君が陸橋から落ちて…。」
何を言われているのかわからない。
それ以降、頭が真っ白になり気を失う。
陸橋の柵を乗り越えて、道路に落下し通過するトラックに轢かれて重体。三時間後に息を引き取る。
病院で警察から説明を受けたものの、何も感じない。
側にいた、夫を責めるだけ。
そして、自分を責めるだけ。
小さな亡骸を家に移し、葬儀の準備に取りかかる。
「麻友子さん。気をしっかり持って頂戴。」
義母は私を慰め、無気力な私の代わりに周りの世話や用事をやってくれた。
「英輝、お前が一緒にいたのに何故こんなことになったんだ?!」
義父は英輝を責め立てる。
英輝も、ただ項垂れるしか出来ない。
宵闇の中、通夜が始まり沢山の弔問客が訪れる。
すすり泣きと、小さな囁き。
私も悲しいのに。
涙が出ないのは何でだろう。
ふっ、と焼香台を見る。
背の高い、男性が貴史の遺影をじっとみつめている。手を合わせ、涙を堪えている。
貴史の一年生の時の担任。
磯山宏哉だった。
焼香を終え、すっとその場を立ち去る。
「貴史君は絵を描くのが好きですね。夏休みに描いた蝉の絵はとても力強くて、生き生きとしていますよ。」
何度か磯山先生とは学校の行事や役員会で会ってはいたが、面と向かって話すのは今回がはじめてだった。
夏休み明けの、個人面談。
九月末の午後の教室。
「学校での生活はどの授業も真剣に取り組んでいますね。係りの仕事も進んでやってくれますよ。」
首筋を流れる汗。
シャツからのぞく、鎖骨。
細い手首。
大きいけど、形のよい唇。
英輝には無いものばかり、気になってしまう。
恋に落ちるのは数秒でかまわなかった。
今まで、知ることのなかった感情。
私には無縁だと思っていた感情。
ペンを握る手。
汗をぬぐう仕草。
その、声。
私は憧れに身体を震わす。
この恋は、誰にも言えない。誰にも気付かれてはいけない。
そっと、閉じ込めよう。
心の奥に。
私には夫も子供もいる。
たとえ、それが偽りの家族であっても。