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終わらない夢
第1章 曖昧な夢
 私が叶わない恋をしたから。

 家族を裏切るような恋をしたから。

 愛する息子を神様は奪っていったの?



 荼毘に付され、無言の帰宅をする。

 小さな、小さな箱になって帰って来た貴史。

「…すまなかった。本当に。本当に、すまない。」

 入学式に撮った笑顔の写真を遺影に決めた。本当の幸せな家族のように、幸せな瞬間の時だった。

 英輝は私に頭を下げ、何度も謝る。

「私に謝らないでください。謝るなら、貴史に…。貴史に謝ってください…。」

 もう、怒りの感情も湧かない。

 息をするのがやっと。

 今は、なにもする気がおきない。

「貴史、貴史…。」

 それでも、聞かなくては。
 その時の事を。
 何があって、どうしてそうなったか。

「あなた。事故が起きた時、何があったの?」

「…陸橋を。」

 ゆっくりと、言葉を選びながら話はじめる。

「陸橋を渡り、コンビニに行こうとしたんだ。階段を登る前に電話がかかってきたんだ。その電話を出て、気がつくと、貴史は登りきって橋の真ん中にいたんだ。」

 膝の上に握られた拳は、血の気が無くなり白く震える。

「手を振っていた。俺に手を振って、身を乗り出していた…。気が付いたら、下に落ちて…。」

「もう、いい。」

 もう、聞きたくなかった。
 何故、どうして…そんな言葉しか出てこない。

 苦しかっただろう。

 一度も目が覚める事なく、逝ってしまった貴史。

 私のたった一人、血をわけた家族。

「もう…。私は…。」


 私はひとりぼっちだ。



 ここ、しばらくどんな風に生活をしていたか思い出せない。

 料理をし、掃除を洗濯をして一日が終わる。

 多分、そうして数週間を過ごしていたんだろう。

 桜の木は花も散り、ベランダからは青々とした葉が木を覆っている。

 貴史がいなくなった部屋は、ただ広すぎて一人でいるには心細い。
 かと言っても、英輝にすがるほど彼を許してはいない。事故だと割りきっているが、心の奥では責めている。

 空には貴史の好きだった、飛行機。

 目の前には貴史の好きだった、公園。

 部屋には貴史の好きだった、戦隊ヒーローの人形。

 明日は月命日。

 ただ、手を合わせ冥福を願う。

 あの、陸橋に行ってみよう。
 今一歩、踏み出してみよう。

 すべてを肯定するために。

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