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花籠屋敷
第3章 来客の号外
時宗に仕込まれて以来、表に出る仕事にも付く機会が増えていった。
桔梗としては、裏方で置いておいて欲しいのだが、そういう訳にも行かない様だ。
配膳後、お酌をしながら来客の話相手をする。
新聞で見た事のある顔や、一目でただならぬ雰囲気を持つ者。
身分高い相手の話について行くのには想像力と思考力を要した。
全然話のわからぬ奴だとなっては上の姉さんからお叱りが飛ぶ。
だが、それ以上に桔梗の不安を煽るのは、お客の口からあの言葉が出ないかという事だ…

今夜この子が欲しい

今日の相手は都の議員さんの様で、政治の話を何度も投げかけて来る。
桔梗は適当な相槌と、時折驚いた様に目を丸くしてみせる。
下手に話について行こうとするとボロが出た。素直に分からない表情をした方が良い。男達は大概教えてくれた。
稀に、其れも知らぬのかと不愉快な顔をする輩もいたが…
その時はその時、割り切って話題を変えるように話をついだ。

「うむ、満腹だ。結構、結構。君の様な別嬪に注いでもらいながらの食事は楽しかった」

「ありがとうございます。嬉しいお言葉で」

桔梗が、頭を下げると、議員の男は立ち上がり宴会場を出て行き始めた。
どうやら好みでは無かったらしい。
桔梗は安堵の溜息をつきながら食台を纏め、調理場へ運んで行った。

「桔梗ちゃん、お化粧良い感じ!もう、慣れた?」

野菊が配膳を運ぶ桔梗を見て笑顔になる。桔梗は調教の夜、恥ずかしい姿を野菊に晒した記憶が頭の中をもたげて、少し目を逸らした。

「前はごめん。ほら時宗様に指示されたら、逆らえないし…」

「ううん、大丈夫。ありがとう野菊」

食器を片付けながら、桔梗は首を横に振った。自分の正体を知っても自然体で接してくれる野菊と居るのは気が楽だった。

二人は食器を片付けると、屋敷の中を歩き回る事にした。
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