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花籠屋敷
第3章 来客の号外
時刻は8時を過ぎすっかり暗くなっていた。
桔梗は野菊と二人で屋敷内を散策する。屋敷内は基本自由だった。
沢山のお客と女中が廊下を行き交う。
桔梗は野菊と離れない様並んで歩く。
丁度曲がり角から椿が、狸の様な中年と手を繋いで歩いて来るのが見える。どうやら身買いされたらしい。 手首に赤い札を付けている。

屋敷では、お客同士で女中取り合いのイザコザを起こさぬよう。
「札付き取るな、早い者勝ち」
という暗黙の掟があった。
屋敷に入ってから、身買い定めは始まっていて、客人は好みの相手を見つけると女中に声を掛けて札を貰うのだ。
女中は札を二枚持ち、買われた時点でお客とペアで札を付ける。
札は女中によって色やデザインが違う。
札の有り無しとその模様で、客がどの女中を取ったか、女中が誰に取られたか分かるという具合だ。

凜とした表情のまま椿は、二人の横を通り過ぎる。
そしてそのまま、中年と共にベージュの色の扉を開いて部屋へ消えていった。

「椿姉さんは、女中の中でも古株なの。美人だし優しいのもあって椿姉さん目当てのお客さんも多いんだ」

「そっか…でも分かる気がする」
桔梗が椿と一緒にいたのは髪切りの時位だが、テキパキとしながらも相手を思いやる椿の行動に安心感を抱いたのを思い出した。
何気無く相手の気持ちを汲み取るのが上手いのだ。

二人は広い談話室へ入っていった
中では女中達や客人が思い思いに会話や読書。将棋などの遊戯に興じていた。
二人は空いてる隅の革のソファーに腰を下した。

「ねえ、野菊はここにどれ位いるの?」

単純な疑問を投げかけた。

「う〜ん…もう直ぐ一年って所かなぁ。時宗様が通り掛かった時に私を見つけて買って行ったの。私の家は機織りの職人さんだったんだけど、地震で機械や材を全部壊されてしまって、家族はどうしてもまとまったお金が欲しかった時期だから」

野菊は背を伸ばしながら微笑んで答えた
「そっか…野菊も大変なんだね」

「あはは、でも今の生活も気に入ってるよ!友達も沢山出来たし。良いお客さんだっているし。楽しいから!そうそう聞いてよ桔梗!この前石楠花(しゃくなげ)がね」


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