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【SS】吼える月
第1章 【5000拍手記念】運命~サクの両親~



 それから1年後――。



「はは……うえ…ぇぇ」


 辿々しく喋る我が子が可愛くて、サラ=シェンウは微笑む。


「おいこら! まずは俺を呼ぶのが先だろう、このチビ!」


「ふぇぇぇぇ……」


「あ? 泣く? 泣きたいのはこっちだぞ、馬鹿息子!」


 サラの夫、ハン=シェンウが抱き上げれば、


「ちち……ぅぅえぇぇ」


息子……サク=シェンウはにこにこと笑い出す。ハンは現金な息子に苦笑し、その頬に何度も口づけた。


 キャッキャキャッキャと喜ぶ息子を、ハンは心から慈しんでいた。

 ハンが小さい頃から強く心に思い描いていた、愛し愛される幸せな家族が、ここにあった。


「ああ、このチビを、緋陵のお前の実家にも見せてやりてぇな」


「縁を切ってしまったから、無理よ」

「だけどこいつのこの可愛い顔見たら、怒りも吹っ飛ぶだろうさ」


 サラは苦笑した。


「そうね、人並みの感情があれば、男で生まれたサクを奴隷にしないでくれるでしょうけれど」


 それでもサラとて、サクをみせびらかしたいのだ。

 男を忌むものとして教えられた彼女は、こんなに可愛い子供を、到底忌むなどできないことを知ったから。


 教えてやりたい。

 異性を愛する悦びを――。


「今度ヨンガに連絡を取ってみるわ。あの子だけ、味方だったから」


 周りを押さえるのに時間がかかっていたサラに焦れ、サラの気が変わらないうちにと、ハンは堂々と男子禁制の国に乗り込んで、サラに求婚した。


 許されるまで出て行かないと居座るハンに、誰もが太刀打ちできずに辟易した時に、終始腹を抱えて大笑いしながらサラとハンの味方になり、厳しい試練を受けて朱雀の武神将になってくれた……愛すべき妹。


「今思えば、なんで笑われたのかしら」

「お前がまさか男作って、ここまで女らしくなるとは思わなかったらしいぞ。ヨンガ曰く、お前はかなりのじゃじゃ馬だったらしいから」


「まあ、そんな話いつしてたの!」


 結婚後、初めて聞く真実。


 もし許されるのなら、三人で緋陵国に行って、幸せであることを見せたい。それがいつになるかはわからないけれど。

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