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【SS】吼える月
第1章 【5000拍手記念】運命~サクの両親~
倭陵(わりょう)暦478年。
倭陵大陸に凶々しい予言が成就する20年前のこと――。
「なぁお前、俺の女にならねぇ?」
妖しげに瞳を揺らしながら、本気で対戦相手を口説く男がいた。
男の名前は、倭陵大陸において最強と呼ばれる黒陵国玄武の武神将、ハン=シェンウ。口説かれているのは、朱雀の武神将サラ=スーツェー……こちらは女性である。
彼らはこの日、四年に一度、女だけしかいない緋陵国における武闘大会で、初めて顔を合わせたばかりだ。
ハンに口説かれたサラは、童顔を忌々しげに歪ませた。
女だから馬鹿にされたと、彼女は思ったのだった。
こんな不躾な態度をされたのは初めてだった。
歴代の武神将が身につける、炎のように真っ赤な防具と、彼女が愛用する赤い鞘の刀は、彼女の操作ひとつでどうとでも刃を操れるものである。そんな武装した姿を見て、言われたのだ。
「お前に惚れた」
向けられるまっすぐな瞳に、サラの顔が険しくなる。
「だからお前も、俺に惚れろ」
注目を浴びる中で、まだ男は続ける。
屈託のない笑顔を見せるその男は、倭陵大陸で最強と呼ばれる男であることをサラもわかっていた。
確かに防具なしで現れたその長身の姿は、筋骨隆々としていて鍛錬を怠っていない体つきではあるが、如何せん、その顔がサラの苛立ちを誘った。
整いすぎているのだ。
憂いある切れ長の目も、高い鼻梁も、薄く笑う唇も、どう見ても非の打ち所がない。