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【SS】吼える月
第1章 【5000拍手記念】運命~サクの両親~
女だと馬鹿にするのなら、山育ちだと嘲笑してやろうと思ったが、黒陵国の正装に"着られている"でもなければ、どこにも田舎臭さはないのだ。
逆に野性的で精悍なその顔と、黒髪から覗く片耳の白い牙が、サラが感じたことのない"男"を感じさせ、笑いながらもどこか真剣な男のまっすぐな目が、サラを惑わせた。
緋陵においては、男は蔑視の対象だ。
女の性処理のための奴隷のような道具だ。
下に見たことはあれども、上に見たことはなく。
ましてやまっすぐに目を合わせたこともない。
今から戦おうとしている相手が、自分に怯えるのではなく、逆に余裕めいて戯れ言を言い出すのは屈辱だと、サラは自分を奮い立たせた。
あの黒い瞳に、捕まってたまるものかと。
サラは、緋陵国において、一番の強さを誇っていた。
こんな軽薄な男に侮られるのは、緋陵が馬鹿にされたのも同然。ならば自分が倒して、最強を名乗ってやると思い、彼女は笑顔ではなく殺気を飛ばして戦闘態勢に入った。
戦いの開始の合図が鳴る。
「おいおい、俺はお前と戦いたくねぇ。女にしてぇだけだ」
「笑止な! 私を女だと、愚弄する気か!」
サラは飛び出し、赤い鞘を振って飛び出した刃を扇子のように広くさせ、鞘の下からは曲がった長い刃を作った。
両手で鞘を左右に開けばそれは長い棒となり、巨大化した武器をぶんぶん振り回しながらハンを襲った。
「食らえっ!!」
完全に捕らえたと思えども、既にその場にはいない。いつの間に背後に回ったかと、身体を捻らせながら曲がった刃を、鞭のようにして捕らえようとするが、やはり既に姿がない。
早すぎるのだ。
緋陵一の早さと強さを誇るサラの長刀は、男にひと太刀も入れられない。
その動き、その身のこなし、彼女が培ってきた者はなにひとつ男の脅威にならなかった。