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桃色フラストレーション
第19章 雨の新宿
駅構内で待ち合わせ、雨脚が強まってきた中、とりあえず近くの居酒屋に入った。高崎くんは少しやつれた様子で、当たり前ながら元気がない。心ここに非ずという様子の彼をそのままに、適当にオーダーして献杯。
「……悪いな、急に」
「いや、大丈夫。ちょうど予定ない週末だったし」
「仕事はどう?忙しいの?」
「うーん、そこそこね。高崎くん……、いつまでお休み?」
「えっと……、十日間休みで、火曜から休んでるから……、かなり先だな。まぁやらなきゃならないこと山積みなんだけどな……。でも土日は忌引きにカウントされないしさ」
おつまみには手を付けず、ビールが進む高崎くん。
「お通夜の晩も昨日の葬式のあとも、トミオの店行っててさ」
「そうなんだ」
「家には関西から戻ってきてる姉一家がいるしさ。なんかこう……、なんにも考えたくないっての?トミオがタダで酒出してくれて、そのまま店で寝てた。……寝てたっていうか、そうだな……、ここ数日、ろくに眠れてなくて」
「大丈夫……?」
やつれているし、顔色も悪い。そう言えば目の下にもクマがある。

「情けないよなぁ。俺結構メンタルには自信あるし、こう言っちゃなんだけど親父のことすげー好きだったとかってわけでもなくてさ……。嫌いでもないけど、あんま家にいなくて関わり薄かったから、入院してからの印象の方が強いし。なのに……」
ビールを注ぎながら黙って頷き、話を聞く。
「みんな悲しんでてさ……。動かない親父見て、焼いて出て来た親父見て……、なんか、生きるって?死ぬって?なんだろう?ついこないだまで動いて生きてた人間が骨だけになって埋められる?俺は何をして生きてる……?みたいな漠然としたことが……、一気に押し寄せてきちゃってな」
「身近な人が亡くなったら……、そりゃあ普通ではいられないだろうね……」
彼はどんどんグラスのビールを飲み干してしまう。
「酒……、飲むと、考えないでいられるし……、寝ようとしても眠れねーし……、彼女がいるわけでもないしさ……。俺の支えって、生きる糧ってなんなんだ?とかな……、今まで頑張ってきた病院通い、もう要らねぇんだもんな……。トミオみたいに妻子がいたら全然違うんだろうけどさ……」
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