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桃色フラストレーション
第16章 一日だけのデート
「ごめんね……」
「ばーか、謝るなって。フラれてるみたいな気分になるじゃん……」
「そ、そういうつもりじゃ……」
見上げた私の唇に、彼の唇がそっと重なる。
「……っ!?」
間近で見るその表情は、とろけそうなほど甘く……、切ない。
「今日だけは……俺のことだけ考えて……?」
抱き寄せながら、ちゅっ、ちゅっ……とついばむような甘いキスが降り注がれ、鼓動が高鳴る。高崎くんの気持ちが痛いほど伝わってきて、どうしたらいいのかわからない……。程なくして観覧車はふもとに戻り、彼に手を引かれて降りた。

その後はまた、観覧車の中でのことはなかったかのように、健全な明るいデートが続いた。頭の中からはどうしてもさっきの甘いキスとその感触が離れなくて、胸の奥が掻き乱される。高崎くんが本当に私のことを好きでいてくれているのがわかる……わかればわかるほど、このデートが今日だけでいいのかどうか……葛藤させられる。

陽が落ちて、遊園地から少し離れたレストランでディナー。田舎だからそんなに豪華ではないけど、落ち着けるお店。
「桃井、ここ来たことある?」
「ううん、私は初めて。高崎くんはよく来るの?」
「家族で、たまにね。まぁ親父が倒れてからは来てないから俺も久しぶり」
ちょっと寂しげな顔をした彼を、元気づけたくなった。
「素敵なお店だね。お料理も美味しい」
「うん、けど東京には良い店たくさんあるんだろ?」
「あんまり出歩かないから……よく知らないんだ。会社の近くぐらいで」
「そっか」
会社の近くの、いつものカフェ……パラダイスを思い出す。光とまだ話せるようになる前から、彼を見つけては気にかけていた私……。
「……どした?」
「えっ!?」
「あのさ……桃井ときどき、なんか思い出してぼーっとしてるよな。さっきも……観覧車の中でも」
気付かれていたんだ……。無意識に、光のことを思い出したりしている私に……。
「ご、ごめん……」
「謝らなくていいよ。そのままでいいって言ったろ?」
「うん……ありがとう」
謝らなくていい、そう言ってくれるものの、やっぱりどうしても心の中に他の人がいる自分のままじゃ、高崎くんに向き合えない。高崎くんが私のことを本当に想ってくれているとわかればわかるほど……申し訳なさが募る。

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