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影に抱かれて
第10章 蜜事

庭に出るとそこはやはり暗かったが、この庭園のどこに何があるのか……ここで生まれ育ったリュヌには手に取るように分かる。

月の灯りだけで十分だった。

そう言えば、自分が幼い頃はこんな暗闇でさえも意味もなく怖かったな、とリュヌは思う。しかし14歳になった今では、闇夜など怖くはない。

世の中にはもっと怖いものが沢山あるということをリュヌはもう知っていた。

暫く歩き、目の前に広がってきたあの懐かしい薔薇園の、その荒れ果てた様子にリュヌは言葉を失う。

若いころから伯爵が愛し、リュヌもそれを引き継いで大切に守ってきたあの美しい薔薇園。それが今は……朽ちた枝が絡まる、ただの荒れ地のようになっていた。

――許されるのなら、ここの薔薇の手入れだけしていたいよ――

そう言って笑う伯爵の屈託のない笑顔が蘇る。

この場所をとても大切に思っていた伯爵。その伯爵が亡くなってしまった事実をまざまざと見せつけられた気がする。今のこの状態を見たら、伯爵はどんなに嘆くことだろう。

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