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影に抱かれて
第10章 蜜事
この様な状態をジャンが許すなんて……よほど余裕がないのだろう。そしてこの荒れ果てた様子なら、ジャンがこんな場所にはもう何もないと言うのも理解できる。
しかし……リュヌには確信めいたものがあった。なぜか今、あの塔に強く引き寄せられるのだ。
そんなことを考えながら塔に向かい、見上げると……塔は相変わらず厳めしくそこにそびえ立っていて、荒れ果てた薔薇園と合わせて見ると、まるでその中に魔女でも棲みついていそうな佇まいだった。
塔を見上げても、木戸が閉じられているのだろう、暗くて上の方のことはよく分からない。そして入り口を見ると、なるほどジャンが言っていたようにそこは閉じられていたが……そっと近付き確かめてみると、やはり昔のように重い木の板が立て掛けてあるだけだった。動かそうとしても動かない。
しかしそれも予想のうちだった。
周辺を少し歩き、手ごろな木の枝を持ちまた戻ってくる。そして板の隙間から差し込むと、中から立て掛けている木の棒がパタンと倒れた。一見して外からは開けられなくなっている木戸も、この隙間から少し手を加えれば簡単に開けられる。
この仕掛けは、ジュールとリュヌだけが知っているものだった。そしてこの仕掛けがされているということは……
あの部屋に今、ジュールがいる筈なのだ。