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影に抱かれて
第4章 雲に隠れて
今回の寄宿学校行きの話も、純粋に勉学をさせてやりたいと思うジャンと、ジュールからリュヌを引き離したいと願う夫人の思惑が一致して伯爵の気持ちを動かしたという経緯があった。
多くの貴婦人方の例に漏れず、夫人の愚痴が始まるとなかなか収まることがない。
しかし、また始まった……と密かにため息をつく伯爵に、ジャンが静かに切り出した。
「ところで、ジロワール家のテオ様はもう社交デビューなされたそうですな」
ジャンが話しかけたのは伯爵だったが、その話に即座に反応したのは夫人の方だった。
「まあ、テオ様と言えばジュールより……」
「十歳ですからひとつ年若ですな。新しい母君が来られてから見違えるようにご成長されたとか……」
ジロワール家は夫人の生家と同じ地方の豪族で、子供の頃から夫人にはライバル心のようなものが染みついていた。さらに主が数年前にもらった後妻が、かなり年若いのに聡明だと噂になっていて、夫人は内心かなり意識しているのだった。
「こうしてはいられないわ。あぁ、ジュールはどこに行ったのかしら? 私がきちんと導いてあげなくては……」
いそいそと部屋を出て行く夫人の背中を、伯爵とジャンは悪戯っ子のように密かに笑い合いながら見送った。リュヌが憧れるだけあって、伯爵とジャンにはあうんの呼吸のようなものがあり、深い信頼関係で結ばれているのだった。