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影に抱かれて
第1章 月夜の贈りもの
掌は自然と汗ばみ、再び襲ってきそうな恐怖心を振り払おうとリュヌは小さく首を振る。
……ジュールは怖くないのだろうか?
目の前にある、自分より一回り大きなその背中がますます大きく感じられる気がしたが、口に出すことは何とか我慢した。リュヌにとって昔から男らしく眩しく見えるジュールの言動は憧れであり、彼のようになることは目標でもあるのだ。
「もうすぐだよ」
螺旋階段が終わると、ジュールはリュヌの手を離し、十段ほどの急な階段を一人で登って行く。リュヌが下を見ないようにしながらその後に続くと……最後は手を伸ばして引き上げてくれた。
そしてリュヌが初めて見るその場所には、厚い木材でできた扉がひとつだけあった。
「お楽しみだ……扉を開けてごらん」
「……」
見せたいものがあるとジュールは言っていたが、ここには何もないはずだ。第一、こんな高い場所にわざわざ何かを運んでくる人間などいない。
「……アン、ドゥ、トロワ! 」
ジュールの掛け声に促されたリュヌが、恐る恐る重い扉を開ける。
と、そこには……ランタンの灯りに照らされた小さな木製の母子像が浮かび上がっていた。