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影に抱かれて
第5章 甘く、苦い……
ジュールにはもう会えないのかもしれなかったが、今はそんなことを気にしている場合では無かった。
――汝が信ずることができるならば、信ずる者には不可能なことはないであろう――
聖書にもそうあった。努力を惜しまず、人の役に立つ人間になるんだ。そして許されるならいつか、夫妻やジュールに今までしてもらったことのお礼がしたい……
そうリュヌは考えた。
夫人が反対してもよさそうなものだったが、十歳の子供を放逐することにさすがに抵抗があったのだろうか……何か言いたそうにはしていたが、口を挟まず、代わりにリュヌを心底軽蔑するように言った。
「早く出ていって……もう二度と顔を見せないで」
夫人のその顔は涙に濡れ……
リュヌは何も言えず、ただ頭を深く下げて部屋を後にした。