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影に抱かれて
第1章 月夜の贈りもの
「……ママンに会いたくなったらここに来ればいいと思ったんだ。ここは屋敷の中で天国に一番近いから」
「天国に……」
リュヌの顔が輝く。
父の顔も母の顔も知らないリュヌにとって、寂しいときにすがることが出来る物は唯一、両親が自分に残してくれたという真鍮のロザリオだけだった。そのロザリオを握りしめ、母親恋しさに密かに泣いてしまう夜もあることを、ジュールは気付いていたのだ。
早速祭壇の前に跪いて祈りを捧げようとするリュヌだったが、ジュールはそれをそっと制した。
「だけどリュヌ、今度のパリ万博では熱気球が飛ぶらしいんだ。あれに乗ればもっと近くまで連れて行ってやれるんだけど……」
「熱気球って……? 」
「空を飛べるのさ! どこまでも、どこまでも……月にだって触れるんだ! 」
空を飛ぶなんて信じられないとリュヌは思った。
……だって途中で落ちたりしたら? 二人には天使さまのような羽なんかないのに。