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ドラスティックな恋をして
第1章 想い出に導かれて
試し弾きの音があちらこちらで跳ねている。
楽器屋に足を踏み入れるのは久しぶりだと、依子は少しばかり緊張していた。
高校生の頃、ギターケースを持って楽器屋に入る時
なぜか誇らしげに胸を張ったものだった。
きっと、その時代はまだギターを弾く女子が少なかったからか、
少数派の自分がなんだか一歩先を行くような優越感に包まれていたのかもしれない。
そんな懐かしい思い出を引き連れながら、
行儀よく並んでいるギターの合間をすり抜ける。
目当ての棚まであとわずか、というところで、依子は足を止めた。
目の前でアコースティックギターの試し弾きをしているその音色と、
絃をつま弾く指の持ち主に目がくぎ付けになったからだ。
立っている依子からは椅子に腰かけている男の顔に
前髪が落ちているところしか見えないが、
そのさらりとした髪質からさわやかな笑顔が想像できた。
そしてなんといってもその指。
少しぷっくりとしているけど優雅な動きを見せるその指。
男の手なのに、ハンドクリームを欠かさない手入れの行き届いたような皮膚が、
依子の口角をあげさせた。