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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】
その発端は、ごく些細だったように、思う。
ゼミに参加して、未だ右も左もわからずに、困っていた時。最初に声をかけてくれた先輩――彼こそが、真矢正直だった。
きっと、向こうは憶えてさえいないのだろう。何を話したという程のものではなかった。だけど、その時の不思議とほっとした気持ちを、璃子は今でもはっきり覚えている。
コンパの時に先輩に囲まれ無理に酒を勧められている璃子を、間に入って庇ってくれたこともあった。何処かに落してしまった財布を、一緒に探してくれたこともあった。
二つ上の先輩であり、親しく話せるようになったのは、つい最近。だから、当時は自分の名前すら知らなかった筈である。
それでも、自然と接した時の安らぎのようなものを、正直は璃子に感じさせてくれた。
一方でつるんでいる三嶋とのコンビは、あまり良い評判ではない。遊び人であるとの噂も、度々耳にしている。
それでも璃子は、真矢正直という先輩の本質を見ていたのだと思うから。自分の中に芽生えた小さな気持ちを、徐々に膨らませていたのだった。