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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】

 そう――三十枚余りの山札の中には、まだ【♤A】と【♢A】が残されていたのだ。仮にそれを引くようなことがあれば、このターンでの勝負は持越しとなる。

 しかし――


 流石に、それはないだろ。


 正直は、そう思った。

 それは最早、確立云々のロジックという話ではない。自身のターンで最悪の展開を作り出している唯に対し、自分が負けることなど露ほども感じられなかったのだ。

 もし仮に【♤A】か【♢A】を引いても、その結果は引き分けに過ぎないのである。正直の圧倒的優位を、揺るがせる程のこととは思えなかった。


「オッケー。じゃあ――さっさと勝負を決めようか」


 何らプレッシャーを感じることなく、正直はあっさりと山札のカードをドロー。

 そして、自分は見ることなく、それを唯の顔の前に突き付けた。


「……」


 唯は黙って、一人それを見ている。当然その表情は、読みようもなく。


「どう?」


 と、正直は至極端的に、そう訊ねていた。

 唯にのみカードを晒すような真似をしたのは、細やかな願望から。「私の負けです」とのセリフを、唯に言わせようと欲していたのだ。

 それまでの対戦で敗北を続けたのは、やはり屈辱として残っている。それを少しでも晴らしたいとの、幾分子供じみた行為だった。


 だが、じっと佇む唯が口にしたのは、予想だにしない――



「悪魔(サタン)……」



 との、そんな言葉。


「え……?」


 それに虚を突かれた正直は、不意にカードを持つ指先の力を緩める。

 すると、ハラリと舞い落ちたカードが、テーブルの上で表に返ると――



【JOKER】



 ――その正体を、正直に明かした。


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