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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
正直の落し物――クシャクシャに折り目のついたピンク色の紙切れを、璃子は膝の上で丁寧に広げた。そして、其処に記された内容を読むと、三嶋の方に視線を戻して訊く。
「どういうこと、でしょうか?」
「うーん……どうもバイトの求人をうたってあるみたい、だけど」
「それなら、せめて企業や店舗の名称くらいは……。このチラシには、担当者の名前も業務内容ですら書き記されていません」
「まあ、確かに……変だよね」
そう同意しつつ、三嶋はそのチラシを拾った時のことを璃子に話して聞かせた。
駅前で正直に会ったのが、二日前の午後六時であったこと。その時に少し、慌てた様子に見えたこと。そしてその際、このチラシを落としていったこと。
そう言えば、バイト云々の話は昨日の電話でも、若干触れていたことを思い出す。
ともかく、一通りを聞いた璃子は――
「六時……ですか?」
と、その部分に引っ掛かっている。
その日、自分が正直と約束していたのは、午後八時だ。待ち合わせ場所までの電車の乗車時間を鑑みても、それでは一時間半以上早く到着することになる。その上、正直が慌てていたというのが本当ならば……。
他にも用事があったのだと、そう考えるのが自然だった。