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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
気配があった。映像から視線を逸らす。そして正直が次に見たものは、テーブルの前にかけられている一枚の絵だった。
それは、この味気のない部屋において唯一の彩であろう。ポツンと佇むような、黒い子猫を描いた水彩画。その闇の如き身体に穿たれた、二つの大きな瞳が――光る。
「……」
正直は硬直したように、それを唖然と見つめた。
もちろん、実際に光を放った訳ではなかった。しかし、そこより感じた気配と混じり、正直は自分が『見られている』との感覚に苛まれている。何故だか異様に、ともかく気持ち悪い気がした……。
そうなった時に、最早、興奮は冷め切っている。
DⅤDの再生を止めると、正直は立ち上がった。そうして近づき、おそるおそると黒猫の絵を改めて眺める。
気のせいか……。
額縁で飾られた小さな絵は、そうして観た時に、やはりそれは単なる絵なのだと思った。
当たり前だ。絵の中の猫に、見られていると感じるは錯覚。
そうと確信し少しホッとしながらも、正直がその夜、再びDⅤDの映像を観ようとすることはなかった。