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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】

    ※    ※


 新垣璃子は本来、やろうと思ったことがあればすぐに行動に移すようなタイプだ。面倒だから次の日でいいや、なんて怠惰なことは認めない。自らに厳しいその姿は、傍から見たら実直を少し通り過ぎて、ややせっかちであるとも言える。

 だから、こんなこと――璃子にしてみたのなら、珍しいことだった。


「どうしよう……?」


 そのアパートの一室は造りは質素であっても、隅々に至るまで徹底した整理整頓が行き届いていた。難解そうな学術書が並ぶ本棚。その横のデスク周りは、機能的に必要な用具が配されている。如何にも勉強熱心な学生部屋の、そのお手本のようだ。

 そんな自室の中程で膝を抱えて座っている璃子は、傾げた頭を右肩に寄りかけ床に置かれている何かを眺めた。

 ピンク色の紙切れ――それは、正直の所在を知る為の、現時点では唯一の手掛かりだった。


「うそ――10時!」


 ふと手にしたスマホで時刻を確認し、璃子は思わずギョッとする。そんな姿勢で何もせぬままに、もう二時間近くが経過していたのだ。

 遅くなれば遅くなるほど、電話はかけづらくなってゆく。殊に初めて電話しようとする番号に対しては、尚更だった。


 そう――璃子は今、一本の電話をかけるか否かで悩んでいる。


 それは見つめた紙切れに記されている番号。もうすっかり記憶するくらい眺めたから、紙切れ自体は既に無用の長物に化していた。

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