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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
「……!」
思わず息を呑んでしまった璃子は、すぐに言葉を発することができずに。
『どなた、ですか?』
結果、先にそれを聞かれたことにより、更に焦りを募らせた。
「あ、あの――わ、私は――真矢正直さんの、後輩――なの、ですがっ!」
上擦った声。それ以上に、散らかった言葉が恥ずかしい。初めて電話を試みた番号。まだ正体も知れぬ相手。それを考え合わせた時に、あまりに自分が先走り過ぎたのだと、璃子は感じた。
だが、当の相手は――
『ああ、貴女でしたか。確か――新垣璃子――さん?』
落ち着き払った声で、自分の名を正しく発声している。
「え? は、はい……そう、ですけど……ええっ?」
璃子はとても率直に、その驚きを顕わにした。相手は自分のことを――少なくとも、名前を知っているのである。
ど、どうして……私、名乗ってないのに?
あ、真矢先輩から、聞いてる……から?
でも、なんて……?
そっか、あのメールも……この人が?
だとしたら、先輩は……今?
頭に幾つもの『?』を浮かべている、璃子。
その考えは、少し可笑しなこと、かもしれない。
でも璃子は、ここまでの短い通話を経て、今の自分が『不利』であるのだと――そう思うのだった。