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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
電波を介し、声のみを互いに触れながら。だが、まだ二人の間には、敵意と呼ぶほどの明確な心の揺らぎはなかった。
それでも、何気に異様な圧を僅かに察して、ひりっとした感覚のまま、璃子は相手の応答を待つ。
恐らく、現在の正直には自由がないのだろう。これまでに得た数少ない情報は、璃子にその結論を導かせている。少なくとも、直接の連絡は叶わない。そして今、話している彼女はその状況を把握している――ようだ。
そこには、何らかの罠が……?
チラシに記された内容も、『二週間』という期間も、『契約』という言葉も、未だ顔も知らぬ彼女の態度も――とにかく全てが怪しいのだと思えた。
その核心に迫ろうとした璃子の問いは、しかし、その答えを獲得するに至ろうとはせずに。代わりに投げかけられた交差の言葉に、璃子の感情は僅かな波を立てる。
『そうですか、承知いたしました』
「え……?」
『貴女は――彼のことが、好きなのでしょう?』
「ハイ――!?」
璃子はギョッとして、期せずして甲高い声を発した。
ど、どうして……そんなこと。訪ねていたのは、こっち……なのに……?
動揺しゆく、自分。それを認め璃子は、思う。ならば、そうなのだろう――と。
だから、即座に返答したことは不思議であったけれど。それは、引き下がってはいけないのだと、そうした直感に殉じたからであった。
その心に立ったさざ波が、一度引いて大きくうねり、また岩肌を叩きつける如く。
「確かに――私には、好意があります」
璃子は凛として、そう告げるのだ。