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【マスクド彼女・序】
第4章 二日目・三日目【微弱な引力の作用】
璃子にしてみれば、通話を切られてしまえば、その時点で終了。そうなれば唯一の手掛かりを失する。もう相手が話に応じるとは、思えない。
激しく挑発することは、得策ではなかった。その一方で、相手の関心を引く必要があった。そのバランスを意識しつつも、璃子は頭の中で先の言葉を探す。
「貴女は先輩のことを、単なる男性と位置づけました――ね」
『ええ――それが、何か?』
「私にとっては、違うということです。先程、申し上げた通り、先輩は私にとって特別な存在――少なくとも単なる男性を超えています」
『……』
「私が承服できない理由は、その一点にこそあるのです」
自分で言っておきながらも、あまりにも飛躍しているように感じた。それ故に相手の反応が気になるが――それは。
『ふ・ふ・ふ』
「!?」
璃子はその冷めた響きを、笑い声だと認識するまでに数秒の時を有する。愉快な感情は皆無の、今まで耳にしたことのないそれは、彼女のどんな心を顕わにしているのだろうか。
だが――
『承知いたしました』
「え?」
『一日だけ、差し上げましょう』
「一日……?」
璃子が自然とその意図を探ると――
『新垣璃子さん――』
「ハ、ハイ――!」
『もしそれを望むのならば、一日だけ――エデンを貴女にお譲りしましょう』
「…………」
決して考え通りとは言えない。
しかし、それでも、とりあえず――は。
璃子は其処に、至ることを許されたのだ。