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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
「ない……けど」
正直は、とても慎重にそう答えている。
予定など、ありはしない。それはスケジュールを確認する必要もない。三嶋の誘いも断ったのだし、試験から解放され晴れて自由の身だ。
この時点で、璃子の真意は見当もつかない。彼女とはたまにゼミの懇親会にて同席することはあったが、無論ながら二人だけで連れ立って何処かに赴くような関係ではない。
それだけに璃子からの誘い(と、決まった訳でもないが)を意外に想うのに反し、その胸中は何らかの期待に高鳴ろうとしている。
しかも「今夜」との響きが、それはまた格別に……。否それを、まさかとは思えばこそ、正直は慎重に璃子の次の言葉を待った。
そして――
「あの、実はですね……ここに、映画の前売り券が二枚、あるのですが……」
璃子はポーチから取り出したそれを、差し出して見せる。
「え……?」
正直はキョトンとして、そのチケットと俯いた璃子の顔を交互に眺めた。