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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
それから数十分後。大学最寄りのコンビニにて――。
「やっぱ、ないものはない……か」
ATMで残高を確認した正直は、そう呟きため息をついた。
5、265円成――その数字が、正直の直面する金欠問題を如実に物語って余りある。
「ええい、背に腹は代えられん」
用いた慣用句が正しいのか、甚だ疑問は残った。だが当面、正直は現在のほぼ全財産となる五千円を、ATMより惜しげもなく引き出してしまう。
それを使ってしまえば、今月中は食事すら儘なるまいが。それでも今は、その事情を顧みることをやめた。
正直には、そうするだけの理由が生じている。
「もし、迷惑でないのなら、私……この映画を真矢先輩と、一緒に観たくって……」
それは、先程の璃子の言葉の最中に。
其処にどれ程の想いが込められたものか、その点については不明。だが、何時もハキハキと話す彼女からすれば、その時の態度は普通とは思えず。
だから、正直は――
「俺で……よければ」
その申し出を、了解していた。