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【マスクド彼女・序】
第2章 前日【楽園からの誘い】
 そうと決まれば、無一文で出かける訳にはいかない。あの璃子の性格からしてチケット代を請求する筈もないが、それに甘えることには気が咎めるのも事実。

 そうでなくとも、シアターまでの交通費は最低限必要。その上映画の後には、二人で食事するような展開も十分にあり得るのだ。

 なけなしの金ではあることは承知。しかし正直にしてみたら、降って湧いたような好機を逸することだけはしたくなかった。

 もしかしたら、璃子と――そんな期待は、否応なく膨らむ。

 ――が、しかし。


「あと、十日……」


 自分の部屋に戻るとカレンダーを眺め、思わず呟く。

 それは今月の残りの日数。それはそのまま、実家からの仕送りまでのカウントダウン。

 璃子からの誘いに浮かれながらも、厳しい現実は何も変わらず。否、寧ろ金欠状態は確実に悪化の一途。

 仮に今夜、財布の中の紙幣が全て消えてしまうようなことがあったとしたなら。明日からは食事することさえ、不可能となる。
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