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【マスクド彼女・序】
第1章 プロローグ
「どうぞ――お掛けになって」
パーテーションの奥より、彼女は言った。
部屋に迎え入れても、尚。未だ、その顔は見せずに。耳にしている声が、辛うじて『彼女』とすることを許容しているに過ぎない状況だ。
しかも、白が黒となり得るこの世の中では、それすらも定かではない。が、其処を言及してしまえば、流石に切はなかろう。
「あ……はい」
とりあえず青年は答えると、テーブルまで足を運んだ。そして、テーブル手前の椅子を引くと、其処に腰を下ろした。
「……」
「……」
黒い布を挟み、青年はその人影と対峙する。暫し互いに押し黙ると、言い様のない緊迫感だけが増幅してゆくようで……。
隔てるものの違いこそあれ、青年は不意にこの状況を、囚人との面会のシーンと重ね合わせてしまった。
とは言え別に、どちらが囚人とまでは、青年の想像が及んではいない。しかし、どちらをそれとするなら、それは間違いなく青年の方なのであった。
それを身を以て思い知るのは、この後のことと――なる。