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【マスクド彼女・序】
第1章 プロローグ
暫しの沈黙の後――。
「あの、それで――」
「――ありますか?」
それは、同時。
互いの言葉を、それぞれに打ち消し合う。しかしながら、些か無遠慮に己の主張を押し通したのは青年の方ではなかった。
一呼吸おいて、彼女は改めて言う。
「身分を証明するものは――ありますか?」
「えっ? あ、あります。ちょっと、待って……」
青年は幾分慌てながら、ズボンや上着のポケットを両手で漁る。そうして先に取り出されたスマホをとりあえず机の上へ置き、次に財布を探し当てると今度はそれを弄った。
そうしてから、その中より取り出したのは、車の免許証である。
「では、コレで――」
青年は右手を伸ばすと、それを机の中央へと滑らせるように差し出す。するとパーテーションの下より現れた細い指先が、青年の免許証を受け取った。
その後に訪れた――数十秒の沈黙。青年はモジモジとして、落ち着かない。
「……」
それでもじっと押し黙ると、一心に黒いレースの向こうのその人影を見据えていた。