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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】

    ※    ※


 BEEEEEEEHHH――――――――!




「――――?」


 それは、けたたましい音であった。オンボロな古い車のクラクションみたい。不快で耳障りで、只々五月蠅かった。


 見ていた夢など、即座に忘れ去るほどに……。



「んんっ! な、なに……?」


 何時も起こされるスマホのアラームとは、明らかに違う。正直は驚くと、伏していた机より顔を上げて周囲を見渡す。机に当てがっていた、右の頬が赤い。

 どうやらその音は、ベッドの方から発せられている。まだ眠い目で調べると、ベッドの枕元――ヘッドボードの処に、スピーカーらしきものが備えられていた。

 不快の権化である音は、間違いなく其処から響き渡っている。しかし――


「オイ――どうやったら、止まるんだよ?」


 それは、ホテルの部屋のアラームとは違って、時刻表示はおろかスイッチの一つさえ見当たらない。つまりこれは、正直を叩き起こす為だけに、機能していると考えるのが妥当らしく。


「なら、もしかして……?」


 そう半信半疑で、正直が向かったのは部屋のドアの前。そして、そのノブを捻った途端――。


 ピタッ――と、音が鳴り止んだ。そして同時に、夜間は閉ざされていたそのドアも開かれている。


「やはり……」


 と、言って苦笑するまでに、正直には核心めいた気分はなかった。

 だが、おそらくこういうことなのだろう。音により起こされた正直は、即座に広間へと行く必要がある。


 それを、今――マスクの彼女が、望んでいるの――だから?
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