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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】
「はあ……?」
それまでの中でも特に、飛躍した質問だと思う。それ故に正直はまた、唯のペースに呑まれ始めていた。
だが、それは少し違うのかもしれない。言葉使いこそ大人びてはみても、何処か幼児が口にする疑問のように、あどけなくもあった。
彼女に正直を困らせるつもりはなく、本心からその答えを求めているのだとしたなら……。
つまりは――『好き』とは、何ぞや?
無垢であるが故に、荒削りで容赦がない。突き詰めたのなら、哲学者や心理学者の領分となろうか。一介の理系大学生である正直が、迂闊に答えられる域にはなかった。
だから、正直はこう訊き返す。それしかなかったからだ。
「唯さんは、誰かを好きになったこと――ないの?」
「少なくとも記憶の中には、ありません。きっと、忘れてしまったのだと思います。今は人を信じることすらできずに。そうして……私は、たった一人」
唯は切なげにそう語り、小首を傾げて正直を仰ぐ。
「だから、知りたいのです。思い出したいのです。正直さん――」
「は、はい……」
「私に――『好き』を――教えて」