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【マスクド彼女・序】
第3章 一日目【彼女との戒律(ルール)】
シャワーを終えて、狭い脱衣スペース。洗面台の横にかけられているバスタオルを手に取ると、いそいそと身体を拭いた。
他にも幾つかの日用品は用意されていたが、流石に代えの服や下着の類はない。正直は仕方なく、脱いだ物を身に着けていった。
まさか、ずっと同じ服を? その点は、後で唯に確認しなければなるまい。
と、そんな風に考え。
「ハハ……」
正直はふと、寂しげな苦笑を漏らした。
何故こうまでも、自分はこの状況を受け入れているのだろう。不思議だ。唯の言うことはどれも、滅茶苦茶であるのに……。
それは、件のメールについても、そうだった。
自分の携帯でメールを返すのに、他人の手を介するなんて。そんなことした憶えもないし、やはり普通のこととは思えなかった。
だから――
「『昨日は、ごめん。ちょっと急用で、心配はいらないから』――と」
正直が唯に伝えた内容は、至極端的なものとならざるを得なかった。
できれば、『楽しみにしてたのに』とか『また連絡する』とか、そんな旨を伝えていきたい。しかしながら、間に唯を通す以上、自らの意図が透ける様な言葉は選べなかった。
唯が、璃子という存在を、どうこう思う筈はない。はっきり、無関係である。その前に、唯と正直の間にすら、未だ関係と呼ぶべきものなど構築されてはいなかった。
それでも正直が唯を気にかけてしまうのは、彼女からそこはかとなく感じる圧力があったから。
そう、この時のは既に。
正直はそのプレッシャーに、苛まれ始めていたのだ。