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残像
第1章 悪夢
「八尋…?」

サチが。布団に半身を起こし、市八の頭を撫でていた。

「ごめん、サチ。起こした?」

「…うなされてたみたいだけど…どうかしたの?」

八尋はかぶりを振る。

「大丈夫。ちょっと…昔の夢を見ただけ…」

八尋は布団に膝をつき、そっとサチの身体を抱き寄せた。そのまま甘えるように、胸に顔を埋める。

勢い布団に倒れこんだサチは、きゃっ、と小さな声を出した。

「…八尋、いきなり何?」

「ごめん。ちょっと、こうしてても、いい?」

サチの胸に顔を埋め、甘える。
サチの温もりを感じ、それだけで安心できた。

サチはそれを拒まず、ふぅ、とひとつ息を吐いて、そっと八尋の背に手を当てる。

とん、とん、と、幼子をあやすようにゆっくり拍子を取りながら背を撫でてくれる。

喜びも、哀しみも。怒りも、不安も。
人として、心を持って生きるから感じるものだ。
昔の己には、無かったものだ。
今は、それが有る。

それは時に、厄介なことでもあったが…
サチと、こうして抱き合うだけで心が落ち着く。
ざわざわとしていた胸の内が、凪いだ水面のように穏やかになる。
そしてそれは、まるで陽だまりに休むような、優しく温かいものだった…
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