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残像
第4章 脱走
八尋の双眸に涙が浮かび、それは堰を切ったように流れ出した。

「どうした⁉︎」

慌てた様子で市九郎に聞かれるも、八尋に答える余裕はなかった。ただ、ポロポロとこぼれる涙を手の甲で拭う。

「…私は…ひと、なんですね…」

ようやくポツリと呟いた。

「あぁ?そりゃどういう意味だ?」

八尋は目を伏せ、また涙が頬を伝う。

「今まで、私はモノとして扱われてきました…
私の意思など関係なく、逆らえば殴られ、ただ、生きていたければ、されるがままになっていれば良いのだと言われてきました。
そうまでして生きていたいとも思いませんでしたが、死ぬ自由すらなかった…
私が、苦痛を感じていると、私に苦痛を感じる心があるなど、誰一人言ってはくれませんでした…
貴方だけです…」

八尋の告白を、市九郎は神妙な顔で聞いた。

八尋は鼻をすすり、泣きじゃくりながら、ひとつの決心をする。
己の、残りの命は、この方に捧げようと。
この方の恩に、少しでも報いることができるように、と…
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