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残像
第6章 初恋
分配が終わると、各々家に戻る。
八尋の家は、鷺と兵衛と同じ棟の三軒長屋だ。鷺は目が見えず、兵衛は脚が悪いので、あまり歩かずに済むよう、それぞれ隣り合った部屋の間の壁に戸を設け、中で行き来出来るようにしてある。
八尋の家だけが玄関を出て表から回らねばならぬ作りになっていた。

家に帰り、使う予定のない分配金を床下の銭箱に収め、独り薄い布団で眠る。
今頃、赤猫は市九郎に抱かれているのだろう。

あの白い肌を朱に染めて、逞ましい市九郎の下で嬌声をあげるのだろうか…

想像しても、妄想しても、己の身体が反応することはない。
せめて己で慰めることができたなら、まだ気も晴れるやも知れぬのに、鬱々と籠る熱を吐き出す術もなく、寝返りを繰り返す。

また、今宵も眠れそうになかった…
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