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残像
第8章 サチ
市九郎の事だ。

誰にも言わずに足を洗おうと思っていたのなら、突き放す仲間の事を思って、暇金でも渡そうと考えたかもしれない。それを多めに懐に入れて捻出するでなく、純粋な己の蓄えから出そうと考えるあたり、如何にも市九郎らしい、と笑ってしまう。

三等分するつもりだったのかどうかは知らぬが、置いていっても誰かに荒らされるだけ、ならば、一旦引き上げよう。

いつか、鷺や兵衛に会うこともあるかもしれない。
そうしたら、市九郎からの粋な計らいだと渡してやろう。

サチにも少し蓄えがあったし、己の分と合わせれば、住む所を工面してもかなり余る。

一生遊んで暮らす、という訳には行かないだろうが、慎めば何とかなるかもしれない。
いずれにしても、己もサチも、金を使って人らしく暮らした経験が無いからよく分からなかった。

馬を一頭調達し、持てる家財と金を持ち出す。
乗ったことはないので八尋が馬子のように馬を引き、サチは付いて歩いた。
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