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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第29章 【二十九話】人の命の儚さ
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 読経が終わり、柩を火葬炉に移動させる前、最後の対面をすることになった。
 柩のふたが外され、斎場の係りの人に花を入れてくださいと言われ、腕に抱えきれないのではと思われるほど渡された。参列者が多ければ一束程度なのだろうが、今は四人だ。柩に入れるために用意された花はかなり大量にあるようで、遠慮していたらいつまでも終わらない。顔を見たらすぐに離れるつもりでいたのを間接的に咎められたような気になったが、それは気のせいだろう。

 道弘と式を挙げてから何日が経ったのだろう。ずいぶんと前のような気がする。玲那は覚悟をして、渡された切り花を入れるために柩に近寄った。
 ふたが閉まって遠巻きに見ているときは気がつかなかったのだが、これだけ近寄ると、消毒薬と漂白剤の臭いに混じって、ほんのりと腐敗臭がしてきた。いくら保冷してあっても、やはり腐敗は進むようだ。とはいえ、両手一杯に抱えた花の匂いのおかげで、それほど気にならない。
 柩の中をのぞき見れば、光沢のある白い布が身体に掛けられていた。
 花を入れるために柩の中に手を入れた途端、道弘が生き返って手首を掴まれたりしないだろうか。
 ──と不安に思ったのは最初だけだった。
 両手一杯の花を柩の中に入れるのはなかなか難しく、玲那は苦労しながら花を丁寧に足下から入れ、とうとう顔の辺りまで到達した。
 肩から上には布は掛けられておらず、死に化粧がほどこされているとはいえ、やはり血の気がなくぐったりと目を閉じた道弘の顔があった。
 顔を見たらなにか感情が湧いてくるかと思ったが、玲那の中にはなにもわき上がってこなかった。
 玲那はじっと道弘の顔を見つめていた。

「玲那」
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