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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第5章 【五話】ふたりの距離
     □ ■ □

 景臣とともに向かったのは、ビルの最上階である十階だった。
 エレベーターの扉が開くと少し開けたホールになっていて、かなり立派な開き戸があった。扉には縦長の立派な木の看板が取り付けられていて、『十朱弁護士事務所』と書かれていた。

「とあけ……」

 十朱といえば、最近、テレビや雑誌などでよく見かける名前だった。
 玲那が以前、なんとなくで見ていたテレビ番組によれば、十朱弁護士事務所には数人の優秀な弁護士が常駐しているのだが、それでも依頼をしようと思ったら、半年から一年待ちだという話だった。
 そんなところと縁もゆかりもないとぼんやりと見ていたのだけど、まさか連れて来られるとは思ってもいなかった。しかもそんな人気のある弁護士に相談なんてしたら、とんでもない金額を言われるのではないだろうか。

「あの、景臣さん……」

 心配することはないと言われたが、やはり色々と心配だ。

「玲那さん、心配は要らないと先ほど申しましたでしょう」
「……はい」
「大丈夫です、行きましょう」

 そう言って景臣が歩き出したので、玲那もそれに従うまで。
 だけど先行きは不透明すぎて不安しかなった。

 景臣について事務所内に入ると、すぐに右へと折れて、一つの部屋に案内された。
 部屋の中はそれほど広くはなかったが、座り心地のよさそうなソファとブラインドの掛かった大きな窓、それから植物があり、思っていたよりは落ち着いた感じであった。

「担当になる弁護士を呼んできますので、玲那さんはお掛けになってお待ちください」
「……はい」

 景臣が指し示した窓前のソファに玲那は腰を掛けた。
 玲那が座ったことを確認した景臣は頭を下げると、部屋を出て行った。

 一人になったことに淋しく感じたが、少しだけ安堵したのも確かだ。
 弘道との結婚式の準備前も景臣と二人で出掛けることは多かった。だけど景臣はその間ずっと、一定の距離を保って玲那に近寄ってくることはなかった。
 それがである。
 今日は一転して、今までにないほどの近距離のうえ、それまでまったく見せることのなかった笑顔を向けてきたのだ。
 景臣の真意がまったく分からなかったが、それでも玲那はこのときまで今まで感じたことがないほどの幸せな気分でいたのは確かだった。
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