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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第6章 【六話】十朱小牧という男
     ■ □ □

 それほど待つことなく、景臣は一人の男性を連れてきた。
 玲那はぼんやりとドアの向こう側に立つ二人に視線を向けた。
 景臣は背が高いが、一緒にやってきた男性もそれほど変わらない。景臣は無表情だが、対照的ににこやかだ。茶色のジャケットに弁護士記章があるということは、彼が景臣が懇意にしているという弁護士なのだろうか。
 その人は景臣を押し退けるようにして部屋に入ってくると、ソファに座っている玲那を値踏みするような視線を向けてきた。そういう視線に慣れている玲那は真っ直ぐな視線を返した。

「こんにちは」

 男性は玲那の真っ直ぐな視線を受け、笑いながら挨拶をしてきた。
 玲那はソファに座ったまま、無表情のまま会釈を返すにとどめた。
 玲那の態度に男性は特に気を悪くした様子もなく、向かい側に腰を下ろした。

「玲那さん、彼はこの十朱弁護士事務所の若手のホープ、十朱小牧です」
「景臣、そのホープって言葉に悪意を感じるなぁ。……まあ、いっか。ここの事務所、ややこしいことに十朱だらけだから、小牧って呼んでね」

 景臣に小牧と紹介された男性は、茶色味がかった髪をかきあげ、にこりと笑みを浮かべた。
 玲那の中の弁護士のイメージは、いつもしかめっ面をしていて、怖くて重々しく感じるというものであった。
 それがである。
 小牧は親しみやすいを通り越して、軽々しい感じがするというのが玲那の第一印象で、よほど小牧の斜め後ろに立っている景臣の方が弁護士っぽく感じるくらいだ。

「時間がないから単刀直入に話に入るけど」

 小牧はそう言うと、かなりの厚さのファイルをソファの前のローテーブルの上に置いた。

「まずは……山浦氏が亡くなったことだけど、お悔やみを申しあげます」

 そういって殊勝に頭を下げてきたけれど、玲那は戸惑うばかりだ。
 結婚式は挙げたけれど、まだ籍を入れておらず、婚約者だったといえばそうだが、いわば政略結婚だ。
 知った人が亡くなったという点では悲しいという気持ちはあるが、改めてそう言われると玲那は違和感を覚えた。なんと返せばよいのか分からずに無言でいたのだが、小牧は玲那の無反応を気にすることなく続けた。
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