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契約は継続します──報酬はあなたの身体で【完結】
第8章 【八話】脅迫状
 そう言って、玲那の前にA4用紙二枚の紙を取りだした。

「玲那さんと婚姻を結ぶ上で、契約を交わしたいというんだ」
「契約……ですか」
「ざっくり話すと、契約内容は玲那さんの身の安全を守るために婚姻関係を結ぶこと、そして契約期間は、だれが見ても玲那さんの身の安全が確保できたと判断できたとき。契約期間終了の際には婚姻関係を解消──ま、いわゆる離婚、だね。玲那さんへの報酬は、実家への金銭的な支援。そして景臣の報酬は、筒宮の名と玲那さんの身体」

 ほら、ここにはっきり書かれてるでしょ、景臣の報酬は筒宮と名乗れるというのと玲那さん自身だって、と小牧はボールペンで該当箇所を指し示した。
 玲那が見ると、確かにそう書いてあり、目を疑った。

「それで。この契約書だと、景臣が有利すぎなんだよ」
「どこが……ですか?」
「まず、景臣はこの契約を結ぶことでデメリットはまあ、唯一あげろと言われたら、金銭的負担、だね。それ以外は前から捨てたいと思っていた『十朱』ともおさらばできるし、あとはまあ、色々とメリットしかない。一方の玲那さんは、正直、メリットがひとつもない。景臣が支払うお金は玲那さんの懐に入るわけではなく、実家に行くのだし、景臣に二十四時間三百六十五日拘束されるわけだ。金銭的な支援が妥当な金額かどうかと言われると、人の一生を縛り付けるには安いんじゃないかなあ」

 だからね、と小牧は続けた。

「契約を解除できる条件を付け加えたいんだけど、いいかな」
「……条件とはなんだ」

 ずっと無言だった景臣が、かなり不機嫌な様子で口を開いた。
 そしてそこで玲那は気がついた。
 玲那と一緒にいるときの景臣は常に敬語だったのに、小牧とは気心が知れているからなのか、かなり砕けた言葉遣いになっていた。
 かろうじて『玲那さま』ではなく、『玲那さん』と呼んでもらうようにお願いをしたけれど、言葉遣いまでは崩すことができなかった。だけどもう少しお願いすれば、敬語ではなく普通に話してくれるかもしれない。そんな淡い気持ちは、小牧の一言で吹き飛んだ。
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