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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 重なり合った葉と葉の間から、僅かな木漏れ陽が洩れている。ついひと月半前、森を色とりどりに飾っていた宝石のような葉はあらかた落ち、地面にうずたかく積もっていた。残っているのは、紅葉(こうよう)を終えて変色してしまった朽ち葉色の葉か、一年中、色を変えることのない常緑樹だけだ。
 彩里は両手を持ち上げると、うーんと思いきり天に向かって突き上げる。深呼吸すると、新鮮な森の息吹が心に積もった澱まで流してくれるようだ。
 やはり、生まれ故郷は良い。理屈なしに安らげ、癒やされる場所だ。
 昨日の夜、俊秀が唐突に森にゆくと宣言したときは、正直、愕いた。もしや秘密が露見してしまったのかと一瞬怯えたのだ。
 もし秘密がバレれば、彩里はもう俊秀の傍にはいられない。たとえ俊秀が良いと言っても、秘密を知られた狐はその人間の傍にはいられないのだ。
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