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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 俊秀は閉じていた瞼を薄く開けた。
 戸の遠慮がちに軋む音。続いてひそやかな衣ずれが聞こえた。
 間違いない、彩里が外に出ていったのだ。
 俊秀は狭い室内から完全に人の気配がなくなるまで逸る気持ちを抑え、待っていた。
 やがて、夜具の上に身を起こし、深い吐息を吐き出す。
 確かめたくはないが、確かめねばならない。現実を知りたいという欲求と、知りたくないという想いが烈しく胸の内でせめぎ合っていた。
 このまま知らぬ振りを通すこともできないでもない。が、やはり、生涯を連れ添う妻ともなれば、せめて良人して真実を―そも妻が何ものであるかを知っておきたいとも思う。
 たとえ彩里が何ものであったとしても、自分の想いが変わることはない。
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