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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 いつも彼は、この瞳を前にすると、引き寄せられ、吸い込まれる。
「―」
 しばらく無言で見つめ合った後、ふいに彩里の唇が俊秀の唇に落ちてきて、俊秀は眼を見開いた。
「駄目だ、風邪が感染(うつ)る」
「良いの、俊秀の風邪を私が貰ってあげる。そうすれば、俊秀の熱もすぐに下がって、明日からまた元どおりに働けるようになるわ」
「彩里」
 俊秀は眼に熱いものが込み上げ、慌てて眼裏で涙を乾かした。
 彩里よ、お前は、俺には過ぎた妻だ。俺は、お前に何がしてやれるだろう。お前を害するものすべてから、お前を守ってやりたいと思うのに、今の俺にはその力がない。
 そっと触れた彩里の唇は冷たかった。
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