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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 それから数日は何事もなく平穏に刻は流れた。
 俊秀は己れの懸念が的中しなかったことに、心から感謝した。普段から、あまり神仏になぞ祈ったことのない自分だが、これからは少し真面目に祈ってみようかと思ったりもする始末だ。
 しかし―。
 新しい年に変わり、最初の月もそろそろ半ばに差しかかろうかというある朝、金ソンイの遣いだという家僕が俊秀を訪ねてきた。
 その朝、漢陽には鈍色の空が低く垂れ込め、今にも雪が降りそうな空模様だった。年の頃は五十前後の男は、金氏の執事を長年務めていると名乗り、愕いたことには立派な女輿を伴っていた。屈強そうな若い下男が二人、恭しく輿を担いでいる。
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