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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 彩里はおもむろに立ち上がり、室を横切った。入り口の扉を開けて、廊下へと出る。
 見上げた夜空には、手を伸ばせば届きそうなほど間近に満月が迫っていた。
 人の血、或いは秋、里に群れ咲く彼岸花を思わせるような紅蓮の月がひときわ大きく炯々と輝いている。まるで月の中に焔を閉じ込めたような禍々しい色。
 彼岸花を死人(しびと)花(ばな)というんだよ、と、教えてくれたのは誰だっだろう。
 そう、私に色々な昔語りを聞かせてくれたお婆ちゃんだ。大好きだった祖母、優しかった祖母。父と母が猟師の罠にかかって皮を剥がれた後、親代わりとして愛情を注いで育ててくれた。
 数年前のあの日、祖母は彩里の眼前で心臓を打ち抜かれて亡くなった。丁度、あの夜もこんな風に、山に初雪が降った。
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