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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 俊秀は、眩しさに思わず眼をまたたかせた。
 どれくらいの間、ここでボウとしていたのだろう。
 今朝、彩里が金氏の執事に連れてゆかれてから、自分は何をしていたのか。
 俊秀はこめかみに手を当て、しきりに思い出そうとしたが、結局、徒労に終わった。
 第一、思い出すようなことは何もしていない。ただ、朝から晩まで、一日中、ここに蹲っていただけだ。
 妻を売り渡した罪悪感と権力にみすみす屈した敗北感にまみれ、絶望と哀しみに胸が張り裂けそうだった。
 日がな、何をするでもなく、考えるわけでもなく思考力を停止させていた。敢えて何も考えないようにしていたのだ。
 兵曹判書の屋敷に連れ去られた彩里がどうなったのか―、想像しただけで気が狂いそうになるからだ。
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