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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
彩里が森で助けた九尾狐なら、わずかふた月前に、山を降りてきて、ここら界隈に棲みついたはずである。なのに、隣家の住人たちは、彩里がほんの子どもにすぎない時分から、ここに住んでいたと頭から信じている―というより、彼らの頭の中では、それが一つの動かしがたい事実となって定着しているのだ。
彩里が淋しげに笑んだ。
「人間に目眩ましをかけるのなんて、九尾狐にとっては難しくはないの。特にここの人々は元から心根の優しい、人を疑わない善良な人ばかりだから、私がずっとここにいたと暗示をかけるのは容易いことだったわ。これで判ったでしょう。私は望んだ姿に自在に姿を変えられる狐よ」
俊秀は昂ぶる感情を抑えるかのように眼を閉じた。
彩里が淋しげに笑んだ。
「人間に目眩ましをかけるのなんて、九尾狐にとっては難しくはないの。特にここの人々は元から心根の優しい、人を疑わない善良な人ばかりだから、私がずっとここにいたと暗示をかけるのは容易いことだったわ。これで判ったでしょう。私は望んだ姿に自在に姿を変えられる狐よ」
俊秀は昂ぶる感情を抑えるかのように眼を閉じた。