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九尾狐(クミホ)異伝
第4章 宿命
 そう、現実には到底、あり得ない話。九尾狐はあくまでも伝承、物語の中にだけ存在する生きものであって、この世にいるはずはないと誰もが信じて疑わない。
 儚い希望的観測を抱く俊秀と違って、当の彩里は極めて現実的に事態を受け止めていた。
「俊秀、あなたの気持ちはとても嬉しいし、確かにそのとおり、九尾狐があの男を殺したなどと女中が言っても、信じる人は少ないでしょう。だけど、大切なのは、そこではない」
 彩里は黒く澄んだまなざしを俊秀に向けた。力が戻ってきたのか、ざわめいていた心が落ち着いたのか、先刻まで紅色がちらついていた彩里の双眸はもう完全な黒に戻っている。
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