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九尾狐(クミホ)異伝
第2章 突然の求婚
「私が泣いているのは哀しいからとか、嫌だからではないの。これは嬉し涙」
「嬉し涙?」
 自分でも恥ずかしいほど素っ頓狂な声が上がってしまった。
「そう、俊秀さんが求婚してくれて、嬉しいから、思わず涙が出てきたの」
 俊秀は額に皺を寄せた。
「女は哀しいときだけでなく、嬉しいときにも泣くんだって、初めて知ったよ」
「丁度、良かった」
 俊秀は懐から簪を取り出した。
「婚約する証っていうか、記念になるとは流石に俺も思わなかったけど」
「素敵だわ」
 彩里はおずおずと簪を受け取った。眼顔で〝良いの?〟と訊ねてくるのに、笑顔で〝良いよ〟と頷く。
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