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九尾狐(クミホ)異伝
第3章 月夜の変化(へんげ)
 月の光を浴びて座っていたのは、何と狐だったのである! 
 艶やかな黄褐色の毛並みが月の光に濡れ、つやつやと輝いている。黒い円らな瞳もまた月光に冴え冴えと潤んでおり、何とも愛らしい狐であった。まだ若いに違いない。
 刹那、俊秀の中で閃くものがあった。
 この狐は、あのときの―ひと月前、山で助けてやった狐だ。俊秀の脳裡に、あの一瞬が鮮やかに甦る。
 秋の色に深く染め上げられた森の中で出逢った美しく愛らしい狐は憐れにも右脚に深手を負っていた。傷の様子から、猟師の仕掛けた罠にかかってしまったのだろうと察せられた。何とか自力で脱出はできたものの、狐の右脚は傷つき、紅い血を流していた。
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